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名古屋高等裁判所 昭和57年(う)196号 判決

被告人 桑名建材株式会社 ほか一人

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人向田文生名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官鈴木義男名義の答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用する。

控訴趣意一 憲法違反の論旨について

所論は要するに、原判決が原判示事実に適用した昭和五五年法律第五六号による改正前の宅地建物取引業法(以下、単に旧宅建業法と略称する。)第七九条第一号は、「不正の手段によつて第三条第一項の免許を受けた者」を処罰する旨規定しているが、右「不正の手段によつて」という語は抽象的、多義的、包括的で、犯罪構成要件の規定として不明確であり、罪刑法定主義の原則に反し、憲法第三一条の趣旨に違反する無効の規定であるから、原判決には右の点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

しかしながら、原判決が原判示事実に適用した所論の旧宅建業法第七九条第一号所定の「不正の手段によつて」との文言は、文義上明確であつて、該法条が憲法第三一条に違反するものでないことはまことに明らかであり、所論は、ひつきよう、独目の見解というのほかはなく、とうてい採用できない。論旨は理由がない。

控訴趣意二 旧宅建業法第一五条第二項の解釈適用の誤りの論旨について

所論は要するに、原判示松本繁記は原判示中部日立化成住機株式会社に勤務していたが、同会社の外回りのセールスを担当しており、被告会社の具体的取引の際には常駐できる状態にあつたのであるから、前同人を取引主任としたことについて、旧宅建業法第一五条第二項に違反したことにはならないのに、原判決は右法条所定の「主として業務に従事する」との文言の意義を常勤又は常勤に近い状態をいう趣旨に解釈して、必要以上に広い意義を認めたものであつて、原判決には、右の点で、旧宅建業法第一五条第二項の解釈を誤りひいて法令の適用を誤つた違法がある、というのである。

しかしながら、旧宅建業法の立法趣旨等に徴し、同法第一五条第二項所定の「みずから、主として業務に従事する」というのは、もつぱらその事務所に勤務し、その者の職務の大半が宅地建物取引業にあてられている状態を指称する趣旨であると解するのが相当であるところ、原判決挙示の各証拠を総合すると、所論の原判示松本繁記は、昭和五一年六月ころ、当時同人が勤務していた株式会社日立製作所の系列会社である日立住宅機器販売株式会社から被告会社に出向し、同年一〇月ころ被告人の懇請で被告会社の取締役に就任し、被告会社の住宅機器販売等の業務指導にあたつていたが、翌五二年五月ころ株式会社日立製作所の系列会社である日立化成ハウジング株式会社に戻り、その後更に中部日立化成住機株式会社に移り、同会社の営業課長となり、昭和五四年八月ころはもつぱら同会社の業務に従事していたが、その頃被告人から「宅建業の免許を取りたいので名義を貸してほしい。」旨懇請され、やむなくこれを承諾したが、被告会社の宅地建物取引の業務には一度も立会つていないことなどが認められるので、所論の原判示松本繁記が旧宅建業法第一五条第二項にいう「みずから、主として業務に従事する」ものに該当しないことはまことに明らかであつて、原判決の事実の認定並びに法令の解釈適用について所論のような違法は毫も認められず、所論もまた、独自の見解に立つて、原判決が適法になした法令の解釈適用をかれこれ論難するものであつて、とうてい採用できない。論旨は理由がない。

控訴趣意三 量刑不当の論旨について

所論は要するに、原判決の各量刑がいずれも重過ぎて不当であるというのである。

所論にかんがみ、記録を調査して検討するに、証拠に現れた諸般の情状、とくに、原判示犯行は、被告人が、被告会社の宅地建物取引業の免許を取得するために原判示のように違法不正な手段を弄して該免許を取得したという宅建業法違反罪の案件であつて、該犯情が悪質であることなどを総合考察すると、原判決の量刑(被告会社及び被告人鈴木誠一に対しそれぞれ罰金六万円)はまことに相当であつて、所論のうち、肯認し得る被告人らに対し有利な一切の事情を十分に斟酌しても、右各量刑が所論のごとく重過ぎて不当なものであるとはとうてい認められない。本論旨もまた理由がない。

よつて、本件各控訴は、いずれの観点からしても理由がないから、各刑事訴訟法第三九六条に則り、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本忠雄 伊澤行夫 土川孝二)

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